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2009年11月26日 はてなブックマーク - ギョーザがSLに見えたハチロクの旅このエントリーを含むはてなブックマーク Twitterにつぶやく

ギョーザがSLに見えたハチロクの旅

Sl_1  JR熊本車両センターで石炭をもらった我々は翌日、いよいよインドネシア産の石炭で走るJR九州自慢の蒸気機関車列車『SL人吉』に乗った。

 この列車は09年4月に運転が始まった観光列車で、ルートは熊本駅 から鹿児島本線を南下して八代から肥薩線に入り、終着の人吉駅まで片道約2時間30分の列車旅となる。歴史をさかのぼると球磨川沿いに山を分け入る肥薩線こそが、明治の開通時は鹿児島本線だった歴史的路線なのだ。

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 牽引するのは58654号機。鉄道ファンの間では『ハチロク』の愛称で親しまれた国産初の量産型旅客用蒸気機関車で、設計が大正初期、製造が大正11年(1922)という現役最古参のカマなのだ。ハチロクはいわば、それまで輸入機関車ばかりだった日本の鉄道に満を持して投入した栄えある国産機、大正時代のYS11のような存在なのだ。ちなみにYSは182機で生産終了したがハチロクは732両も作られた。両者ともに末永く使われたのは、ニッポンの身の丈にあった設計だったからだろう。そんな大正の機関車で明治の線路を走るのが『SL人吉』の面白さだ。

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 熊本駅で待っていたハチロクはお召し列車の牽引機のようにサビひとつないコンデションだった。もともとこの車両は九州各地で使われた後に昭和50年に引退。ながらく矢岳駅で保存されていた機関車で、昭和63年にボイラーや動輪を新製して復活させ『SLあそBOY』として活躍してきた。 しかし寄る年波でシャーシにあたる台枠までが歪んでしまい一時は再起不能かと思われた。ところが工場に図面が残っていたことから再び大修理に入り、台枠を新造して再度復活した不死身の機関車なのだ。
 これに合わせて準備された3両の客車は両端に展望ラウンジを持つぜいたくな造りで、ビュッフェやミニSL展示コーナー 、ミニSLライブラリーも備えたJR九州お得意の木調豊かな列車に仕立てあげた。
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 9時41分、ホームに立つ職員らの歓呼の声に送られて熊本駅0番線ホーム出発した『SL人吉』は一路南に向かった。すると町を行く町民や田畑に立つ農民たちがみな列車に向かって手を振るではないか。聞くと沿線では「手を振レイル運動」を実施しているとか 、そういえば軍艦の号令で『総員帽フレ』というのもあったっけ。ともあれ、答礼していたら手が疲れた、でも悪い気はしない。
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 やがて併走する九州新幹線の構造物がしだいに接近すると新八代だ。わがSL列車はその下をくぐり10時40分に木造駅舎の八代駅に到着した。ホームでは近年爆発的に売れた八代駅の駅弁『鮎屋三代』の売り子が練り歩く 。九州新幹線の開業で“素通り都市”になりかかった八代の駅が、こんな形で活気づくのはヨソ者ながら嬉しい。
八代からは肥薩線に入り球磨川に沿って内陸に進む、まず進行方向右手に雄大な球磨川の流れを見ながら単線のレールをゆっくりと進む。 途中、坂本、白石、一勝地といずれも木造駅舎の駅に停車するたびに乗客はホームに飛び出してハチロクに群がる。
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 考えてみると、蒸気というエネルギーを生産しながら走る蒸気機関車は発電所を積んだ電車のようなもの。器用なような不器用なような、ともあれ列車の先頭で実にダイナミックな仕事が行われていて、その熱気と息吹が間近に伝わってくる。ボイラーまわりの小さなメカが停車中でもなんとなく作動したりするリアルな“生体反応”も見飽きない。
 発車時間が近づくと女性アテンダントがプールの管理人のように、ハンドベルを鳴らして散った客を集めるのも面白い。

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 激流岩を噛む車窓風景も、明治41年完成の第2球磨川橋梁を渡ると唐突に平原になる。
熊本県南部の山中に東西30km、南北15kmにわたって広がる人吉盆地に出たのだ。
12時13分、終着の人吉駅に到着 。ここからは鹿児島に向かって矢岳峠を越える肥薩線と、かつては国鉄湯前線だった第三セクター鉄道くま川鉄道が分岐する。その駅構内の機関庫を見学した。明治44年建築の石造りの機関車庫で、肥後の石工が積み上げたという石壁が長年の使用で真っ黒に燻され、まるで古武士のような風格を漂わせる。
 隣の転車台では先ほど乗ってきたハチロクの方向転換も行われ、 ここにもファンが集まっていた。機関庫や転車台など、旧人吉機関区の設備がまるごと残っていたことも『SL人吉』の運行ができる大きな要因だったのだろう。

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 今年で明治が終わってから97年が経つ。
 それでもなお使用に耐える明治大正の鉄道施設はたいしたものだ。と、まあ小理屈を並べてもやっぱりナマ蒸気機関車の魅力が一番だった『SL人吉』の旅 。

 そのあと、人吉の名物餃子店『思いつきの店』に赴く。この店は地元の人も「食べられたらラッキー」というほどの大人気の餃子専門店で、老夫婦が機関士と機関助手のように黙々と大量の餃子を焼いていた。
 人吉ではこのような餃子専門店が数軒あって新名物になっていると聞く。ともあれ『思いつきの店』は不定休のうえに店も狭く、やたら待たないとたべられない。でも、そんな欠点がどこかで魅力になっているのは、遅くてスス臭い蒸気機関車と一緒に思えた。
30分以上待ってありついた餃子は、 フライパンで30個まとめて円形に焼いた豪快な餃子だった。その姿がなんとなく、ハチロクの動輪に見えた。

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●『SL人吉』は4月~11月の金道日・土・日曜と休日、および夏休み期間(火曜日は運休)運転。下りは熊本駅発9時41分、上りは人吉駅発14時39分。運転は快速列車扱いで片道運賃は熊本~人吉間の乗車券1770円プラス座席指定券800円=2570円。人吉駅から吉松駅まで『いさぶろう・しんぺい』と、くま川鉄道の『自然博物館列車KUMA』が接続。『思いつきの店』は人吉市紺屋町、15~22時、不定休だが超人気店だけに覚悟して訪ねられたい。

■杉崎行恭(すぎざき・ゆきやす) 西に廃線になりそうな鉄道があれば、行って乗客数を増やす助けになり、東にオンボロのプロペラ機があれば、行ってこわがらなくてもいいとみんなに言う、あらゆる乗り物を愛するフォトライター。『日本の鉄道車窓100選』(新潮新書。共著)など著書多数。ウェブサイト「http://sugizaki.oline.jp/」も適宜更新中

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