東急電車、奥の細道~寄り道編
青森県の十和田観光電鉄で、元東急の7700系と3600系電車を堪能した我々は、次の東急電車を目指してまっしぐらに走った……わけではなかった。
いま我々がいる十和田市のすぐ北には、七戸町があるではないか。七戸といえば、そう、七戸商人の心意気を示すべく、毎年2月に商店街を挙げて値引きを競う「元祖まける日」……ではなくて、あの「南部縦貫鉄道」の終点だった町である(※「元祖まける日」はホントにあります)。
「南部縦貫鉄道! ああ、いちど乗りたかったなあ」
と、同行のオーハラ氏が嘆息をもらす。南部縦貫鉄道は、その役目を終えてからすでに13年(1997年運行休止、2002年廃線)を経た、伝説の鉄道だ。往時は茫漠たる上北郡の平原を、バスを改造して造ったという、なんともユニークな「レールバス」キハ100形がよたよたと走る、東北開拓の歴史を思わせる鉄道であった。
「ここが、あのレールバスの故郷なのかぁ」
高校生までは素直に鉄道ファンの道を歩んでいたのに、そこからロックひと筋の青春に迷い込んでしまったオーハラ氏。そのため、中小ローカル私鉄の終焉期を無為に過ごしてしまったのだ。
かつての七戸駅は、奇跡的に残っていた。
まるで小学校の校舎を思わせる木造の駅舎には、まだ“南部縦貫鉄道”と“七戸駅”の看板が残っていた。現在は『縦貫タクシー』という会社になっている2階の事務所に行き、南部縦貫鉄道グッズが買えるか尋ねてみた。
「あの~縦貫鉄道の~、そのお~」
相手はもはや、鉄ちゃん(鉄道ファンことをこう呼びます)などとは縁もゆかりもない、一般の会社の人である。そこに場違いな道楽オヤジが訪ねて、気恥ずかしくも口ごもっていると……。
「アンタたち、レールバス見たい?」
応対してくれた女性の口から、想像もしていなかった言葉が発せられた。
「も、もちろん、見たいです!」
「いいわよ、ついてきなさい」
事務所の四戸さんの後について、かつての駅待合室を抜けて構内に入ると、レールやホームはまだ健在。車庫の建物もそのままだった。四戸さんがガラガラと車庫の扉を開くと……。
「うわっ、いた!」
まず目に入ったのが、側面に独特のバス窓(ガラスの縁にゴムのパッキンが入った窓)をもつキハ104。この車両、もとは昭和31年製の旧国鉄のキハ10だ。ディーゼル気動車として、初めて総括制御(ひとりの運転士が、複数の車両を先頭車両から制御する)ができるようになったという名車である。相当年季の入った車体だが、きれいに塗装が施されている。
そして、狭い車庫いっぱいに停められたキハ104のさらに奥に、まるっこい肩が見えるではないか。おもわず息が荒くなる。
「レールバスだあ!」
キハ104にくらべてひとまわりもふたまわりも小さいレールバス、キハ101と102が、まるでピカチュウの兄弟のように並んでいた。
近年、地方の第三セクター向けに作られた小型で軽量なディーゼル気動車をレールバスと呼んでいるが、これこそが本当のレール「バス」だ。
「こりゃ、もうどこから見てもバスですねえ」
と感嘆しきりのオーハラ氏。リベット(釘)で接合されたボディに、4輪単車の台車。ボディは富士重工製で、エンジンは日野製。ボディの角にある折り畳み扉に広大な前面ガラスという外観は、「鉄道車両」ではなく「自動車」そのものである。
この幻のレールバスは、富士重工がわずか数両つくっただけの超珍品だが、南部縦貫鉄道では運行休止されるその日まで、30年間以上も走り続けた。
だが、もはやその走る姿を目にすることはできないんだろうなあ、と嘆いていたところ、「これ、いまも走るんですよ」と四谷さん。
聞くと、ボランティアの南部縦貫レールバス愛好会のメンバーがお金を出し合って、動態保存しているのだとか、頭がさがります。
すでにほとんどの線路が撤去された南部縦貫鉄道だが、この七戸駅構内には車庫やホームや駅舎がセットになって保存され、年に数回レールバスに体験乗車できるイベントも開いているらしい。巨大な鉄道会社が歴史的名車を立派な博物館に集めるのもいいけれど、その車両が走っていた日常風景の中に残しておく、という保存の仕方もセンスがいい。
“やはり野に置け月見草”
野村克也・元楽天監督の、そんな名句が頭をよぎる。
オーハラ氏は、「いやぁ、こんな素敵な施設が近くにあったら、毎日でも通っちゃいますよ」と感激しきり。
小生も、「まるで、英国ウエールズの保存鉄道のようだね」と、低く呟いてみせた。
ご本尊を拝ませていただいたのだから、お賽銭をあげなくてはならぬ。そこで、レールバス保存の一助となっている「南部縦貫鉄道グッズ」の中から、四戸さんが「コレ、最新型なの」とオススメの、『レールバスストラップ』(1000円)を購入させていただいた。

「おっ、このストラップについてるレールバス、ちゃんとバス窓が透けて(クリアになって)るじゃない」とオーハラ氏も驚く、鉄ちゃん落涙の逸品である。
ところで、今回我々がレールバスを見学できたのは、あくまで四戸さんのご厚意によるもの。通常は原則非公開になっています。
でも、5月2~3日に七戸駅で開催されるイベント「レールバスとあそぼう2010」では、見学はもちろん、体験乗車もできるそうですから、レールバスに会いたい人は、ぜひこの機会に訪ねてみられてはいかがでしょうか。
■杉崎行恭(すぎざき・ゆきやす) 西に廃線になりそうな鉄道があれば、行って乗客数を増やす助けになり、東にオンボロのプロペラ機があれば、行ってこわがらなくてもいいとみんなに言う、あらゆる乗り物を愛するフォトライター。『日本の鉄道車窓100選』(新潮新書。共著)など著書多数。ウェブサイト「http://sugizaki.oline.jp/」も適宜更新中
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