【連載】蕎麦を待つ間に 第22回:蕎麦屋を目利(めきき)する
蕎麦屋に入る前に、その店の味がどの程度のものか、わかるといいのだが、実際に食べてみないと、なかなか本当のところはつかめない。食べてガッカリする回数は、最小限にとどめたい。そこで、僕が実践している「蕎麦屋を目利する」コツを、お伝えしよう。
その店の蕎麦が、うまいか、あるいは少々問題ありかは、店の外観を見ただけで判断することは難しい。ただ、僕の場合、あまり格好の良い店は、敬遠するようにしている。特に繁華街にある、日本料理店のように立派な蕎麦屋は、ほとんど入ることはない。夜、店頭の竹林などがライトアップされて、作務衣を着た店員さんなどが出入りしている店は、避けて通る。理由は、これまでに何度も入ってみて、失敗した経験があるからだ。たぶん、酒を飲むなど、蕎麦を食べること以外の目的で行けば良い店なのだろう。
外観が汚れていたり、周辺に壊れた道具類やビールケースなどが放り出してある店を避けることは、言うまでもない。
また、立派なガラス張りのショーウインドーの中に、大きな石臼が回っている店も、ちょっと足を止めて、様子を観察するようにしている。石臼があればいいというものでもない。本来石臼は、客に見せるような性質の道具ではない。それを、これみよがしに見せている店は、かえって不安になったりする。しかし、中には良い店もあるので、慎重な判断が必要だ。
どうも否定的な意見ばかりで申し訳ないが、実際にこれらのことに、僕は注意しているのだ。
では、どういう店ならいいのかというと、たとえば繁華街から外れたところにある小さな蕎麦屋。人通りの少ない場所で営業を続けていられるということは、おそらく蕎麦がおいしくて、リピーターが多いのだろう。
そして、昼の時間しか開いていないような蕎麦屋も、ちょっとのぞいてみたい。それが自宅を改造して営業しているような店なら、これは入ってみる価値が十分にある。営利目的というより、多分に趣味的な店で、力の入った蕎麦を食べさせてもらえる可能性がある。
それと、店内をのぞいてみて、女性客が多いようだったら、ひとまず暖簾をくぐってみる。女性客で混んでいる店は、美味しいところが多いようなのだ。
さらに確実に見極めたいのなら、店頭に置いてある(あればの話だが)、メニューをじっくり見ることに尽きる。この連載の第一回でも書いたように、僕は蕎麦屋の品書きを眺めるのが好きな「蕎麦屋の品書きファン」だ。蕎麦つゆが「蕎麦屋の履歴書」なら、品書きは蕎麦屋のレントゲン写真か、CTスキャンの画像データといえるほど、店の内情が透けて見えるものなのだ。
まず、品書きの最初の部分、「もり蕎麦」あるいは「せいろ」に、何種類かのバリエーションがある店は、俄然、興味がわく。普通の「せいろ」のほかに、「十割蕎麦」があったり「粗挽き蕎麦」があったり。こういう店は、蕎麦そのものの味が、作り方で変わることを熟知しているとみていい。だから手間ひまかけて、何種類もの、シンプルな蕎麦のバリエーションを作るのだ。
また、ソバの産地が、いろいろ明記してある店も面白い。そこまで関心を持って仕事をしている店主なら、いろいろ研究しているはずで、旨い蕎麦を出してくれる可能性は大いにある。特に、そのソバ産地の中に「福井」とか「大野」「丸岡」「妙高」「こそば」などの名前がある場合は、アタリの可能性はさらに高くなる。
もうひとつ付け加えるならば、「てんもり」とか「鴨なんばん」など、蕎麦屋の定番メニューのほかに、「冷製、梅サラダそば」など、様々な創作メニューを並べてある店も、思い切って挑戦してみたい。食べてみて、もし失敗だったとしても、「おいしかったけれど、もっと味を薄くしたほうが私は好きです」などと、一言コメントしてあげたい。こういう意欲的な店なら、次に訪れたとき、欠点が改善されている可能性があるからだ。
蕎麦屋さんは、食べてみて、おいしくなくても、できるだけ苦言を呈して、また行ってみるようにしていただけるとうれしい。味に不満があったら、もうその店には行かないとなると、いつまでたってもおいしい蕎麦屋さんは育たない。店は客が、大切に育てていくものだと思う。
だから本当の目利の方法は、一度食べてみて、「遠慮なく苦言を呈してみる」ことではないだろうか。店側が不愉快そうな態度を見せたり、次に行ってみて改善された様子がなかったりしたら、もうそこには行かなければいい。たくさん苦言を呈して、それを参考に改善してくれる蕎麦屋さんを見分けることが、本来の目利というものではないだろうか。その後、何度も通うほどに、その店はあなたの好みの味の、美味しい蕎麦屋に成長してくれるに違いない。
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