ホーム >  > 『東急電車、奥の細道~福島交通編』

前の記事

次の記事

はてなブックマーク - 『東急電車、奥の細道~福島交通編』このエントリーを含むはてなブックマーク Twitterにつぶやく

『東急電車、奥の細道~福島交通編』

Photo_15  前回、日本最北の“電鉄”でもある弘南鉄道と十和田観光電鉄で、いまだ現役で頑張る、なつかしの東急電車を見た。

 さあ次は……と見渡してみたところ、東北地方には元JRや第三セクターを除くと、意外“電鉄”が少ないことに気づく。それでも1990年代の中盤までは、宮城で「栗原電鉄」が頑張っていた。だが、経営の悪化で95年に第三セクター方式の「くりはら田園鉄道」として再出発した際に、運行費軽減のため、電車をやめて、ディーゼル車に変えてしまった(そんな努力にもかかわらず、2007年には廃線になってしまったのだが)。  
 そんな、“電鉄”受難の地である東北地方で頑張っている数少ない私鉄が、福島県にある。『福島交通飯坂線』である。
 今回の旅のお供は、鉄道カメラマンの坪内政美氏だ。彼は、スーツ姿で鉄道写真を撮影するという、たいへん個性的な男である。“鉄ちゃん”(鉄道好き)には珍しいスーツ姿で全国津々浦々の鉄道に現れる神出鬼没の男としても知られ、愛称は“どつぼ”。しかし、その“どつぼ”氏でさえ、「福島交通飯坂線には、行ったことはございません」という。なんと地味な“電鉄”だろう。
Photo_16 Photo_17

 福島交通飯坂線は、地元では『飯坂電車』と呼ばれている。JRの福島駅から、“奥州三名湯”のひとつに数えられる飯坂温泉までの9.2kmを結んでいるローカル私鉄だ。
 福島駅のホームに行くと、四角いステンレスの電車「7000系」が停まっていた。「これ、いまは食パン電車になっているけど、元は東横線や田園都市線で走ってた、東急の『7000系』電車ですね」と、“どつぼ”氏。食パン電車とは、運転台の無い中間車に無理やり運転台を取り付け、先頭車に改造した車両のこと。正面から見ると、まるで食パンの断面のようにのっぺりしていることから、その名がついた。JRでは、かつて一世を風靡した「月光型寝台電車」を改造した「419系」などが、食パン電車として有名である。
Photo_18  

飯坂電車の7000系の顔を眺めていたら、以前、東急車輛の技師長をされていた宮田道一さんにインタビューさせていただいたときのお話を思い出した。
 「中古電車の改造は、“できるだけ安く”が基本です。運転装置なんかも、工場の隅から隅まで、なにか利用できる部品がないか、探し回って使います。だから、先頭車のデザインなんてほとんどがおかませ。僕がスケッチを書いてどんどん決めてました」(宮田さん)
 飯坂電車の7000系が宮田さんの手によるものかどうかは不明だが、先頭車は、見事にスパッと切断されていて、まさしく食パンそのもの。それでも、運転席の窓を大きくとっているので、新造電車に見えなくもない。
 さて、飯坂電車の見どころは、食パン電車だけではない。ここには、世にも珍しい駅があるのだ。 福島駅から7000系に乗り、終点の飯坂温泉駅の2つ手前、医王寺前駅で下車する。 電車を降りた瞬間、“どつぼ”氏が声を上げた。「うわっ、これはまた大変な駅ですね」。 そう、この医王寺前駅は、上下線ホームの間の、ネコの額のような空間だけで完結している、“狭小駅”なのだ。“どつぼ”氏が「それでも駅舎がある」と驚くように、ホームの端には犬小屋のような(失礼)駅舎があり、上下線が合流するまでの船形の空間に、信号機器や簡易トイレなどが一列に、まるで艦隊のように並んでいる。朝と夕には駅員も配置されるというから、ひょっとすると日本最小の有人駅ではないだろうか。 「よく見ると、トイレの隣に井戸もありますね」と、“どつぼ”氏。トイレの横にある井戸って、問題はないのだろうか?  やがて、玉石を積み上げたホームに食パン電車がゴトゴトと進入してきた。全長20mクラスのJRの電車に比べると、本来非常にコンパクト(全長18m)なはずの食パン電車だが、医王寺前駅に停まるとかなり大きく見えるから、不思議である。
Photo_19 Photo_20

Photo_21 Photo_22

 経営状況から、中古電車に依存しなければならない地方私鉄にとって、全長18mクラスのコンパクトな車両は貴重である。ところが、中古電車の供給源となる大手私鉄の車両は、最近どんどん大型化している。
「だから、18mクラスの電車が走る目蒲線や池上線を持っている東急は、いまや地方私鉄の中古電車の大切な供給源になっているんです」(“どつぼ”氏)なるほど、全国のローカル私鉄に東急の中古電車が多いのには、そういった理由があったのか。
 飯坂電車の終着はもちろん、みちのくの名湯、飯坂温泉である。飯坂温泉といえば、『飯坂ホテル聚楽』の“かみなり風呂”が有名だ。大浴場が15分に1回暗くなり、稲妻と共に雷鳴が轟く。“どつぼ”氏、せっかく来たんだから、入っていかない? 「いえ、私は雷が大嫌いでして……」“どつぼ”氏は、鉄道カメラマンになる前に、林業組合の職員として森の中で働いていたのだが、ある日、本当に「目の前」に雷が落ちたことがあるのだそうだ。そうか、ならばこれからかみなりの名所、北関東は上州の電鉄に向かおうじゃないか! 
 というわけで、次回は群馬の上毛電鉄と上信電鉄を訪ねます。
乞うご期待!

■杉崎行恭(すぎざき・ゆきやす) 西に廃線になりそうな鉄道があれば、行って乗客数を増やす助けになり、東にオンボロのプロペラ機があれば、行ってこわがらなくてもいいとみんなに言う、あらゆる乗り物を愛するフォトライター。『日本の鉄道車窓100選』(新潮新書。共著)など著書多数。ウェブサイト「http://sugizaki.oline.jp/」も適宜更新中

前の記事

次の記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:

この記事へのトラックバック一覧です: 『東急電車、奥の細道~福島交通編』: