【昭和が目にしみる】 第4回:城山三郎展覧~父の背中に会いに行く その1
■死後も読者をふやしている作家
横浜の元町商店街からほど近い、神奈川近代文学館では、6月6日(日)まで、「城山三郎展-昭和の旅人」が開かれている。
公開前の4月23日にはオープニング・セレモニーと内覧会が行なわれ、「昭和の旅人」ゆかりの人が顔をそろえた。展覧会の編集委員を務めた澤地久枝さん、神奈川近代文学館長で、評論家・作家の紀田順一郎さん、『落日燃ゆ』の編集を担当された元新潮社の梅澤英樹さん、肖像写真家の相澤實さん、そして新聞社や出版社の現役組の面々--。
挨拶に立った紀田さんは語った。「城山さんは亡くなられたあとも読者を増やしているめずらしい作家ではないでしょうか」。そして、この展覧会では、「作品の向こうに昭和という時代が見えるような流れにしました」と。つまり、城山さんの個展でありながら、作品を支えた読者の目に立って昭和が見渡せるような構成になっている。
つづいて展覧会を監修された澤地さん。「この機会に城山作品のほぼ全作を読み返しました。お正月はホテルにこもって毎日読んでいました。どの作品もしっかりした取材をされ、人物がきちんと描かれています」。また、こんな感想も。「今回の展覧会は実によく集められていて、(足尾鉱毒事件を描いた)『辛酸』の展示などは、明治天皇への直訴上なども展示され、谷中村の人たちの声が聞こえてくるようです」。
城山三郎さんの作品は昭和に実在した人物や組織を描く。だから展示も具体的だ。昭和の街並みの写真、広告、当時の風俗が写りこむ集合写真やポートレイト、本や雑誌の表紙、レコード、新聞スクラップ、額、公文書、テレビ画面、そんな昭和の遺物を見ながら歩いていると、展示会場の角から死んだ父がふっと出てきそうである。照れくさそうに「おまえ、来てたのか」なんて言いながら。
図録(900円、上左写真はその表紙)も熱がこもっている。B5判64ページのなかにカラー、モノクロ合わせて230点もの写真、図版、メモ、スケッチなどがおさめられ、よくぞ集めたものだと、ため息が出そうなほど。巻末には1927年の誕生から2007年、間質性肺炎で逝去するまでの79年間の生涯を一望できる綴じ込みの年譜も付く。また次のような、城山さんが自らを律した箴言も読める。
「この日 この空 この私」(色紙)
「倦まず たゆまず ひたむきに 守ってやまぬ自己の道」(創作ノート)
「静かに行く者 健やかに行く 健やかに行く者は 遠くまで行く」(色紙)
「鈍 人間関係に気を使わない
鈍 まわりが何を言おうと気にしない
楽 そうすればどんどん気が楽になり 楽しくなります」(晩年、孫娘に手渡したメモ)
歓談の時間に澤地さんはこうおっしゃった。「『総会屋錦城』などは今読み返してもいい作品。現代の新人賞と比べても高いレベルですよ」
わずか50ページの直木賞受賞作『総会屋錦城』は、はりつめた文章で老総会屋の最後の一閃を描く。
【井本メモ12:「城山三郎展-昭和の旅人」
「城山三郎展-昭和の旅人」
6月6日(日)まで開催中
会場は、神奈川近代文学館
横浜市中区山手町110 電話045・622・6666
最寄り駅は、みなとみらい線の元町・中華街駅(現地までは徒歩で約10分)
月曜休館
9時30分~17時(入館16時30分)
観覧料は600円
■サライ編集部 副編集長 井本一郎
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