ホーム > コラム > 【昭和が目にしみる】第6回:永遠の海景~海女が暮らす自給自足の村から その1

前の記事

次の記事

コラム

はてなブックマーク - 【昭和が目にしみる】第6回:永遠の海景~海女が暮らす自給自足の村から その1このエントリーを含むはてなブックマーク Twitterにつぶやく

【昭和が目にしみる】第6回:永遠の海景~海女が暮らす自給自足の村から その1

Photo_2  立ち読みでもかまいません、どうか6月10日発売『サライ』2010年7月号を手に取ってください。164ページから始まる、三重県志摩半島の越賀(こしか)という小さな集落に生まれ育った海女・中村とみ(78歳)さんのロングインタビューを読んでいただきたいのです。

 とみさんは昭和7年生まれ、15歳から63年間も海で暮らしてきた現役海女です。夫が操る船に乗り、夫婦で漁に出る「舟人(ふなど)」と呼ばれる形態の海女では最長老ではなかったでしょうか。今年の4月3日、4日、『サライ』創刊以来のベテラン記者Sさん、写真家・中村征夫さんのお弟子さんの海洋写真家Oさんととともに、とみさんのところへお話をうかがいに行きました。わずか1泊2日でしたが漁協の方たち、中村さんのご家族やご近所の方たち、海女の後輩の皆さん……集落を挙げて歓迎していただきました。ひとりが全部、全部がひとり、そんな村でした。

Photo_5  2日目の昼過ぎ、いよいよお別れという段になって、「あんたらまた絶対来るんやで、ちょっと待っとって、すぐ帰ったらいかん」。しばらく海女小屋の前で待っていると、その日の午前にとみさんが何十回も海に潜り、せっかく捕ったサザエをそっくり土産にして渡そうとするから、「これは受け取れない」「いいから持って帰れ」の押し問答。海中でとみさんと真剣勝負を演じたカメラのOさんは別として、とみさんの海女仕事の激務を目の当たりにし、海中で光るストロボを舟上でただ眺めていただけのSさんと小生は一滴の汗も流していない。だから受け取れないと固辞しても聞き入れられず、複雑な思いでサザエをひとり20個以上もいただきました。帰りの新幹線や家までの私鉄電車の中でほんのり漂う磯の香りをかいでいると、海女さんが勢ぞろいして昼から始まった私たちの歓迎宴会での強烈な志摩の言葉、新鮮なさんま寿司や手こね寿司の滋味、水割りウィスキーの懐かしい味、翌日の海での激しい働きぶり、獲れたてのさざえの美しさ、海から見た集落の小ささ、さまざまなことが次から次へ思い出され、でっかい時間だったなあ、とただ呆気にとられるばかりでした。家で食べるサザエは磯の旨味がたっぷり詰まりワタも爽やかで、煮物にまわす余裕もないほど殻がおもしろいように積みあがっていきました。

 それから2か月。できあがった見本誌をとみさんにお送りしたところ、翌朝お嬢様から電話がありました。義理がたいとみさんのことですから、ほんとうなら朝いちばんで席の電話が鳴り、「わっしゃあトミだがねぇ、恥ずかしいもんだわなぁ、あんたらこんなもん作っとったの、わっはっはぁ」、そんなふうに喜んでもらえると決めてかかっていたので、娘さんから「母に見せたかった」とうかがったときは意味がわからず、6月1日、海女をしている最中に心不全で亡くなったと聞いて、はじめて何が起きたかを知りました。中村とみさんの一生に心より敬意を捧げ、謹んでご冥福をお祈りいたします。

 今回は、記事ではお伝えできなかった志摩の海女について記していきたいと思います。

■サライ編集部 副編集長 井本一郎

前の記事

次の記事

コメント

サライはゆっくり読むので宮澤賢治で落ち着いていました。
海女さんのインタビューだと知っていたのですがご無礼しました。

皆さんが激務だと感じた通り激務の63年間だったのでしょうが、いいお仕事を全国の皆さまにお見せでき草葉の陰で喜んでおられることと思います。今はただご冥福を心よりお祈りいたします。
夫婦一丸をなって漁をなさっていたご主人が気がかりです。

 お亡くなりになったことを知らせて来なかったのですね。
 謙虚な家族ですね。

                       合掌

投稿: キーチャン | 2010年6月12日 20時52分

先日、ご子息とお話することができました。天職による天命という印象でした。夏にうかがうことにしました。この記事について「役者が舞台で逝くようなものだね」と言った方がありましたが、ほんとうにそのとおりだと思いました。

投稿: 井本 | 2010年6月27日 10時48分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:

この記事へのトラックバック一覧です: 【昭和が目にしみる】第6回:永遠の海景~海女が暮らす自給自足の村から その1: