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【昭和が目にしみる】第6回:永遠の海景 ~海女が暮らす自給自足の村から その4

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■仕事場は海の上

 翌日は朝から夫妻の舟に乗せてもらって、海女の仕事を見せていただく。伊勢エビを捕獲する海老網漁の準備をする越賀漁港から、次々に海女を乗せた舟が出ていく。

 伊勢の海女には舟人(ふなど)と徒人(かちど)がある。舟人は、男が舟を操り女が海女として海に入るやりかた。徒人はひとり海女のことである。徒人は乗り合い舟で漁場に出て、その周辺で漁をするので漁場が限られる。それに対して舟人は自由に漁場を移動できるうえ、ウインチが使えるため速く深く潜れる。

O (写真/中村とみさんが重りとともに水中に潜る。海女漁のはじまりである。ウェットスーツにタンクを背負いストロボ付きカメラを持ったフル装備のOさんが、とみさんを追って海に入る。)

 仕組みこうだ。舟人の場合、海女は漁場に着くと命綱を付けておよそ15キロの重りを抱いて海に沈んでゆく。海中で重りを放し、約50秒ほどアワビやサザエを剥がし、命綱をツンと引いて合図を送ると舟上の男がウィンチのペダルスイッチを踏む。すると命綱がみるみる巻き上げられ、海女が海面に顔を出す。舟べりの水槽に獲物を入れ、息を整え、また重りを抱いて潜ってゆく。同じ1分でも徒人は浮力が邪魔をして潜るのに時間がかかり、上昇も自力なので余力が必要なため、おのずと深い場所へは行きにくい。舟人は、からだはきついが、漁場を自在に移動しながら深い場所でも行き来できるので、高額なアワビや、サザエでも大きな収量が狙える。1回1分という世界一短い漁、天候さえ許せばこれを半年の漁期で午前1時間、午後1時間、週6日間行なう。

 舟上の男は海中の海女に細心の注意をはらう。海女は舟上の男に命を預ける。舟人は夫婦が望ましいといわれる所以だ。夫婦喧嘩の翌日は夫の引き揚げのタイミングが遅れることもあると、海女小屋体験で別の海女から聞いた。越賀で舟人は中村さん夫妻だけである。
 志摩の海女については『志摩の海女(復刻版)』という名著がある。海女の漁法や道具の解説、信仰や祭り、ニコリと笑ってアワビをくれる恐ろしい海幽霊の話まで、海女や漁師の聞き書きで綴った民俗学の本である。ただし図版は手描き、写真もモノクロの絵画資料しか載らないので、カラー図録の『目で見る鳥羽・志摩の海女』を併読すると楽しい。 伊勢神宮と志摩半島の海女との関係は本書独自の視点で参考になる。ともに海の博物館で手に入る。

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左/『志摩の海女(復刻版)』(1890円)。明治33年生まれの風俗研究家・岩田準一が海女と漁師の暮らしと信仰、伝説を聞き書きした貴重な1冊。初版は昭和14年。岩田は近世文学とくに男色史の研究者であり、竹久夢二風の絵画も描き、また江戸川乱歩とも親交があって自ら大衆小説も手がける文化人。後述の海の博物館で入手できる。
右/『目で見る鳥羽・志摩の海女』(海の博物館編、700円)
海女の漁風景や道具類、獲物、信仰などについてカラー写真が多いので、『志摩の海女(復刻版)』と併読するとわかりやすい。ただし、この図録だけでは情報が物足りないと感じるかもしれない。

 海の中のとみさんは、顔つきが全然ちがう。海に消えて60秒後にふたたび顔を出すときは、顔がゆがみ、苦しそうに見える。いったい、この往復を何度繰り返すのだろう。とみさんが潜るたび、海中でOさんのストロボが発光している。漠然と、きれいだなあ、と思う。男はだめだな、たばこに火をつけながらSさんがつぶやく。ふたりで、とみさんが潜っている間、息を止めてみた。全然だめ。息がもたない。舟上で手にてなす何事もなく時間を過ごす。とみさんと源司さん、そしておそらくOさんも、われわれとまったく違う時間を生きている。

【井本メモ16:海の博物館
鳥羽市内から遠いが、漁具と木造船の収蔵数は日本一を誇り、さまざまな用途の和船80隻を集めた巨大収蔵庫は圧巻。建物も日本文化デザイン賞、日本建築学会賞受賞、全国公共建築百選、日本の建築空間100選選出と個性的で、博物館好きは一見の価値がある。
■三重県鳥羽市浦村町大吉1731-68 電話0599・32・6006
ウェブサイトは、こちら

■サライ編集部 副編集長 井本一郎

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