シャレ言葉・ありがた山のとんび~話芸のことば探訪~
落語や講談に出てくる人物のセリフには、時々シャレ(語呂合わせ)を利かせた文句が出てくる。おそらく、昔は一世を風靡した都会の流行語だったのだろうと思われるが、今は辞書のたぐいを調べなければ分からず、そのまま聞き流すはめになったりする。こういう文句というのは、ぱっと通じなければつまらないので、放置しておけばやがて消え失せてしまうかもしれない。それももったいないので、こういう言葉を解説するというのも少々野暮だが、いくつか例を挙げて紹介していこう。
ありがた山の寒鳶(かんとんび)、ヒュウトロトロと嬉し鳴き
これは兄貴分におごって貰う等、願ってもないような話が舞い込んで、「お、こいつぁありがてえ」と喜ぶときに使う文句である。「ありがた山」は「ありがたや」からの連想、その「山」にいる寒鳶(寒い時期のとんびのことだが、特に意味のない罵倒語としても使われたらしい)に自分をなぞらえて、泣(鳴)くほど嬉しい、ありがたい、ということだ。落語の「しじみ売り」に相当する講談「汐留の蜆売り」に出てくる。
ありがた山の昼鳶、ヒュウトロヒュウトロと嬉しなき
という言い回しも講談の「安政三組盃」にある。これは両国広小路の待合へ小銭をたかりに来たチンピラが、まんまと女将から一分の銭をせしめた際に残すセリフの一部。「昼鳶」には小盗人(こぬすっと)、掏摸(すり)の意もある。
なお、「故事俗信ことわざ大辞典」(小学館)には、「有難山の鳶烏(とんびからす)」という項目があり、「ありがた山の~」にはさまざまな言葉をくっつけていた。「寒烏」、「ほととぎす」、「椎の木山椒」、「二軒茶屋」、「宝ちん丹」(ほうちんたん)。これは「豊心丹」という薬の名をもじった言葉で、調子をつけるため、こういう語呂合わせに多用されたようである。
なにも「しじみ売り」が冬の噺だから「ありがた山の寒鳶」といっているわけではなさそうだ。
■ライター/松井高志
フリーライター。著書に『人生に効く! 話芸のきまり文句』(平凡社新書)、『ナンドク 難読漢字自習帳』(バジリコ)、『江戸に学ぶビジネスの極意』(アスペクト)など。
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コメント
江戸の人は、人生の余禄として自然と様々な言葉を知っていたのかもしれませんね。
投稿: Oh_no_gucci! | 2011年8月10日 08時12分