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傾城の涙~話芸のことば探訪~

「花暦八笑人」(瀧亭鯉丈)に、次のようなセリフがある。

おらがのは傾城泣(けいせいなき)といふので、目へ袖を押付てこすりちらすと、目縁(まぶち)が赤くうるんでくるハ

「傾城泣」は、女郎がいわゆる手管でお客をだますために空泣きをするテクニックのことである。落語では「お茶汲み」という噺で娼妓がお茶を目につけて涙に見せかけるのだが、目のふちに茶殻がほくろのようについてしまって、そのウソ泣きがお客にバレる。
 ここでは、危うく侍に無礼討ちされそうになった町人が、空涙を流してその場を逃れたあとで、仲間内でせいぜい強がってみせる場面なのだ。オレの嘘泣きはうまいものだろう、と威張っている。これをその友達がちゃかす。

おめへの樣にするのは、昔の傾城泣で、目のふちへつハを付ケたり、のみかけて有る茶を付タリして、袖でこするなんぞハ、腮(あご)で褌をしめた時分の、客人でなけれバ眞受にはしねへ

 その手の「傾城泣」なんぞはもう古いぜ、というのだ。「腮(あご)で褌をしめた時分」とは、大昔のたとえ。「一方の端を顎でおさえていながら縦から横へ回して締めていた時分」(「江戸語の辞典」)というが、筆者も褌を用いてるわけではないからよく分からないのだけれど、普通、(六尺)褌ってそうやって締めるもんじゃないんだろうか? 江戸時代末期には下着やその装着法に一種の流行があったのだろうか?
 まぁそれは直接本稿に関連しないから別途調べるとして、

今時ハ手ばなしで泣て見せねへでは得心しねへワナ

何も使わず、自然に涙がどばどば出るくらいでなければ、人は騙せないというのだ……。

■ライター/松井高志
フリーライター、1960年愛知県生まれ。著書は「人生に効く!話芸のきまり文句」(平凡社新書)、「ナンドク 難読漢字自習帳」(バジリコ)など。

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