なんとなく関西風~話芸のことば探訪~
昔の言葉で面白いのは、人や人の行ないを罵(ののし)る語彙が豊かだという点である。
『花暦八笑人』(瀧亭鯉丈 りゅうていりじょう)に、こういうセリフがある。
「前置(めへおき)ばかりりつぱで、かんじんの趣向が、すこたんだから安心ならねへ」
「すこたん」というのは<1.間違い、見当違い、当てはずれ、見込み違い、とんちんかん、肩すかし>といった意味と、<2.間抜けな人、うすのろ>を罵っていう語である(『江戸語の辞典』講談社 学術文庫版)。『花暦八笑人』の用例は、「当てはずれ」というか「看板倒れ」ということだろう。
この語は演劇関係者の用いる語で、「すかまた」、すなわち<1.間違い、見当違い、へま>、<2.当てはずれ、見込み違い>と同義であり、その元は「当てはずれ」を意味する「すか」(透)であろう。はずれクジをいう「スカ」と同じである(『江戸語の辞典』講談社 学術文庫版)。
「すこたん」と言われると、関東と関西の真ん中で生まれ育った筆者は、上方語の「スカタン」をすぐに連想する。意味はほぼ関東と同じで「当てはずれ」や「失敗」、「常識の反対、つまりアホ」。「タン」には特に意味はない。前に述べた「おつりき」の「りき」と同じようなものだ。
落語では、たとえば『狸の賽』で、このような表現がある。
「アホ。表で大きな声出して、中で小さい声出して……やることがまるきりすかたんやがな、お前」
これは「常識の反対」の意味である。かつて筆者は某女性誌で無免許のモグリ占いライターをしていたが、あるとき原稿に<今月の○○座は意気込んで物事に取り組んでも結局すべて「スカタン」になるのが関の山>などと勢いに任せて書いたが、予想通り、担当編集者から「スカタンは読者に意味が通じないので書き換えなさい」という教育的指導が入った。そのときは「意気込みが空回り」とか何とか、無難なぬるい表現に書き直した記憶があるが、今もあれは「スカタン」の方がしっくりくる、としつこく思い続けている。
■ライター/松井高志
フリーライター、1960年愛知県生まれ。著書は「人生に効く!話芸のきまり文句」(平凡社新書)、「ナンドク 難読漢字自習帳」(バジリコ)など。
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