昭和が目にしみる 第24回 「コンド・ホテル」という発見、そして沖縄農業の先駆者たち
■「ホテル」と「別荘」のいいとこどり
クリスマスの騒々しさもひと段落した年の瀬に、沖縄のリゾート・ホテルが、1泊2日の小さなプレスツアーを組んでくださった。
「カフーリゾートフチャク コンド・ホテル」というエキゾチックな名前のリゾートである。
漢字をあてると「果報リゾート冨着 コンド・ホテル」。果報は「幸運」の意味、沖縄のことばで読むとカフー、冨着はホテルが立つ恩納村の海辺の地名である。
縁起のよい名前がふたつ重なってあやうく見落としそうになるが、ここで大事なのは「コンド・ホテル」というコンセプト。「分譲形式で部屋を区分所有するマンション」を意味するコンドミニアムと、至れり尽くせりのホテルがひとつになった。
「カフーリゾート」では、1.別荘オーナーのように自由に堂々とふるまい、さらにホテル施設を使いこなせるコンドミニアム所有者と、2.快適な環境でゆったり安息できるホテル・ライフ、の2つのいいところを、あわせて提供しようというのである。
連泊するなら、こんなところがいいな、というのが感想であり結論だった。
このホテルでは、①ホテル・スタイル(1泊1部屋2万2000円~)と②コンド・スタイル(3連泊で1泊1部屋2万3040円~)の、大きく分けて2タイプの部屋が用意されている(各タイプ内には、さらに値段帯によりランク分けされている)。
①はオーシャンビューの快適なホテル、②の別荘志向のコンド・スタイルでは、ホテルのサービスを受けながら、さらに各部屋にはキッチン、洗濯機、広いドレスルームが付属する。また客室掃除やリネン交換はオプションとなっているので、経済的だ。
①②ともに、ルームサービスもすこぶる充実している。フードメニューは70種もあり、そのほかゲームや趣味品、海外の有名ブランドの家電製品やキッチン用品などもリーズナブルな料金で貸し出してくれる。ホテルは、「日本最大級のルームデリバリー」を高らかに謳う。
●カフーリゾートフチャク コンド・ホテル
沖縄県国頭郡恩納村冨着志利福地原246-1
電話098・964・7000 FAX098・964・7700
http://www.kafuu-okinawa.jp/
14時チェックイン 11時チェックアウト 那覇空港から沖縄自動車道経由で約50分、石川インタ-下車。
■「リゾ-ト」ってなんだろう?
リゾ-トと聞くと、バブル経済期を思い浮かべてしまう。リゾートとバブル、この2語はとても親和性がある。なぜなら、バブルは1980年代後半から90年代に起きた地価・株価高騰のこと、そして、そのこの嚆矢を告げるかのように1987年、リゾ-ト法(総合保養地整備法)が成立したからだ。
リゾ-トは本来、18世紀にあっては王侯・貴族など特権階級の保養・社交施設からはじまるが(ドイツのバ-デンバ-デン)、19世紀に富裕市民層に広がり(フランスのニ-ス、アメリカのパ-ムビ-チ)、20世紀にいたってさらに大衆化された(地中海沿岸やアメリカのフロリダ半島など/ブリタニカ国際大百科事典)。
日本では箱根、日光、軽井沢など、明治期にやってきた外国人によって生み出された避暑地が先駆といえようか。これらの伝統的行楽地にはそれぞれ冨士屋ホテル、金谷ホテル、万平ホテルなど老舗ホテルがいまも格式と評判を誇る。
リゾ-ト法は、それまでの保養地とは規模が革命的に違った。国や自治体が民間企業と一体となって各地にリゾ-ト拠点を設けた。その結果、せまい日本のなかに41都道府県42エリアにわたって、引き返すことのできない開発が行なわれたのはご存じのとおり。
そのどれもが、18世紀に淵源を持つ歴史あるリゾ-トに伍すようなものばかりではなかった。誇り高きサ-ビス、そこでしか食べられない地産地消料理、すばらしい景観を占有できる快適な部屋、みんな簡単にこれらを謳ったが、どれだけの施設がお客に十分な満足を与えられたことか。
バブル崩壊でリゾ-トの地金が出た。「口ばっかり」「なんかそんな感じ」「かっこよく言ってみました」――イメ-ジばかりで実態がともなわないところは淘汰された。ちょっと頭をかいたくらいでは済まされない土地とお金が、不可逆的に消費されてしまった。
それと同時に、適正規模できちんと運営し、うまくいきかけていたリゾ-トも、たとえば一元的な借金の引き剥がしなどで、淘汰の嵐に一挙にさらわれたところもあったのではないか。
リゾ-トは曲がり角を曲がったあと、道を見出したのだろうか。円高でお客の目が肥え、海外こそが「本物」という人もいる。国内では、リゾ-トでお金を使うことは、以前ほど格好のいいことではなくなっている。
リゾ-トとは保養地のことにすぎない。日本人が100人いたら100とおりのリゾ-トがあっていい。欧米と同じである必要もない。そもそも何人の日本人がそれを語れるのか。至上の贅沢だと思って高級ホテルに泊まり、幼いわが子の泣き声に気をつかい、身だしなみやテ-ブルマナ-に小さくなるくらいなら、大家族をまるごと受け入れてくれ、旨い刺身をたらふく食わせてくれる料理民宿こそが、その人にとってのリゾ-トでいい。
また、計画者の思惑どおりに行くはずがないのもリゾ-トだ。100人100様のニ-ズをあらかじめすべて満たす施設などない。いざ建ててみて、実際に集った人によって「空気」ができあがっていく。予測はするが、どこが甘かったり、ずれていたりするとうまくいかない。いいコンサ-トホ-ルも、劇場も、レストランも、みんなそう。くりかえし人に選ばれ、ある閾値を超えると、施設が人を選びだす。大切なのはさまざまな空気をもった施設が、多様に混在することだ。
子供の声など聞きたくもない、大人だけの特権を独占的に享受できるリゾ-トも必要だし、気軽に家族や仲間と連泊できるリゾ-トも必要だ。安さこそが安心感という学生や若者が自由に出会える機能的な宿所もリゾ-ト化できるかもしれない。そこを快適と思える自分の分身・仲間のような人たちが施設全体の空気をつくり、そのなかでくつろげることがリゾ-トの大切な要素だろう。
トマム、シ-ガイア、オランダ村、リゾ-ト法によるリゾ-トは規模が大きく、非日常を売りにした。非日常はバブルの一特徴であり、リゾ-トにおいては「夢の街」の実現といいかえてもいいかもしれない。いま42か所ものリゾ-ト法に基づく基本構想地区の一覧を見てみると、どこか子供だましのような構想が見出せるのも、日本人にとってどんな形態がもっとも望まれたリゾートなのかを熟慮せず、夢ばかりを追いすぎた結果かもしれない。
バブルが終わり、地に足をつけ、日常を大事する時代に入ってからずいぶんになる。リゾ-トへの期待値も、夢見るような滞在生活ではなく、日常の延長として「使える施設」への欲求もあるはずだ。いいかえれば「わが家」感覚のリゾ-トである。
「カフーリゾート」は、ロビ-や、デリやショップのあるエリアを歩いていても、部屋のオ-ナ-と観光客がふつうにすれ違う。ホテルスタッフに孫の自慢をしたり、什器を借りに来たり、家主として楽しそうにふるまっていた。自分の親や定年した元上司のような、おだやかな大人たちが沖縄の立体別荘でオ-ナ-としてこの建物に部屋を所有し、生活している様子は、素直にうらやましいと思えた。
ホテルのお客たちも、そんな孫自慢やオーナーのおしゃべりに楽しげに耳を傾ける。オ-ナ-気分はお客にも伝染し、施設全体がわがもののように身近になり、ホテルスタッフになんでもものが言える。スタッフは平均年齢30歳代と若く、老舗リゾ-トと風を異にする活気がある。自然にくつろぎ、ほっと笑顔が生まれる環境がそろっている。
■選べるランチは13種類、朝食は20種類以上のバイキング
「カフ-リゾートフチャク コンド・ホテル」の食事処は、スパニッシュ・イタリアン「ザ オレンジ」、創作和食の「無垢」、それから気軽にファストフ-ドが手に入る「デリ」から自由に選べる。
スパニッシュ・イタリアン「ザ オレンジ」は、「食べてきれいになる」がテ-マ。地元食材を、なるべく素材の滋力を生かして仕上げていく。
この日に食したランチは2500円のコ-ス。メイン13種から1種を選び、前菜、デザ-トのハ-フビュッフェが付く。メニュ-は月替わりで更新され、3か月に1度は、ハワイ、フレンチ、などテ-マのあるフェアを行なっている。うかがった12月26日は、次の3種類が供された。
朝食のブッフェ(2500円)も圧巻である。マッシュル-ムス-プ、チ-ズボ-ド、コ-ルドハム、サ-モンマリネ、レモンチキンガ-リックソテ-、県産野菜ラタトゥイユ、蒸し野菜、ガ-リックシュリンプ、ミ-トボ-ルスペイントマト、オクラグラタン、チキンバジルウィンナ-、スクランブルエッグ、厚切りロ-スハム、ソ-ミンチャンプル-、焼サバ、ラフテ-、茶碗蒸し、蕎麦、オクラと湯葉のおひたし、苦菜白和え、白飯、ボロボロジュ-シ-(かやくご飯の粥)、味噌汁……20種類はゆうに超える。
もちろん朝からこんなに、という向きには、デリで手ごろなパンなど買って、部屋やカフェテリアで食べてもいい。
キャッシュオンデリバリ-方式のデリでは、朝の軽食メニュ-のほか、時間帯でメニュ-が変わる。夜には前菜450円~、県産近海マグロのアヒポキ丼880円ほか献立多数。併設されているカフェバ-では500円~から飲める。
ショップ
ブランドの伊江島牛を使った「伊江島ジャ-キ-」とか[豚の中身(内臓)チップ」や酒肴も多い。シャンパ-ニュから泡盛まで酒類も十二分、「シ-クヮ-サ-入り充実野菜」「塩サイダ-」「チョコドリンク」など沖縄限定のソフトドリンクも目がはなせない。「みんさー織」の小物など、ちょっとした土産品も買える。
■和食は沖縄素材を使った創作メニュ-
ランチがスパニッシュ・イタリアンなら夕食は和で。この夜は次のものをオーダーした。
県産イセエビの日本風ブイヤベ-ス
イセエビ、島ダコ、アオダイ、イカ、アサリをかつお出汁とガ-リックオリ-ブオイルで煮こみ、最後に焼石を落とし爆発的沸騰を楽しむ。魚介の甘みが強いので、コ-レ-グ-ス-を垂らしてバランスをとった。ワインや泡ともよく合う。
■「男のリフレッシング」のお試しコ-ス
居住者も気軽に利用するというリフレッシング・コ-ナ-も見学させてもらう。夫はマッサ-ジ、妻はエステというこれまでの区別はあまり意味がないらしい。セラピストと呼ばれる専門スタッフに話を聞いているうち、そう思うようになった。人が気持ちがいいということに、男も女もない。
スタッフがとくに男性用にと勧めてくれたのが、次の2コ-ス。
◎フットケア(45分5800円~)は、足裏パックとリフレクソロジ-により、全身がリラックスするという。
◎オイルマッサ-ジ(60分9800円~)は、英国の現代アロマテラピーの祖・イブ・テイラ-のオイルを使ってマッサ-ジをしてくれる。
施設内には現代美術のような、機能的なチャペルもある。ここで、「再誓式」を挙げる熟年カップルもあるという。また、サプライズとして、子から親へプレゼントすることも。
金婚式、銀婚式、そんな周年にとらわれず、人生の転機にさまざまなことを身内で誓い合い、たしかめあう。そうした「再誓式」の相談にものってくれる。もともと形式などないのだから、打ち合わせではスタッフのほうからもアイディアが飛び出す笑いにあふれたものになるという。ここでいきなりプロポ-ズをして決勝ゴ-ルを一発で決めた男性もいた。もちろんスタッフ全員が男の味方となって。
■何に対していくら払っているのか
旅をするときはいつも、何に対していくら払うのか、ということに自覚的でありたいと思う。それは、びた1文だまされないぞ、という防御的なものではなく、1銭でも得をしてやろう、という攻撃的なものともちがう。まったく知らない土地で、自分の知らないものがどれだけの価値を持っているかを学び、それがいまの自分にふさわしいのかどうかを考える、その往復作業によって、自分というものが見えてきたりもする。食については吝嗇だが、古本には大甘で、たとえば漆芸は評価する目もないほど無知だったり、というふうに。お金は自分を知るわかりやすい道具である。
それを高いと思うか、ちょうどいいと思うか、安すぎると思うか、その価値観の差こそが個性である。旅における個性とは、自分の価値観に合った旅を組み立てる力だと思う。他人はほぼ関係ない。人とちがう体験をしたり、人より安い旅をすることは、人と比べているという点で、まったく個性と関係ない。
「カフ-フチャク コンド・ホテル」では、ほぼすべての施設利用、料理、サ-ビスに値段がついている。単価が明らかになっている。これらを一片のむだもなく、自分やグル-プにとって必要なものだけを集め、パッケ-ジすることができる。
これを野暮という人もいるかもしれない。でもこんなに現代的で機能的なシステムもないだろう。物や食ばかりか、サ-ビスすら着脱可能、むしろ個性を試されているのはお客のほうかもしれない。「あなたは当ホテルを楽しみ尽くし、使い尽くせますか?」
ここは沖縄であり、全室がオ-シャンビュ-であり、土地の食材を使った料理がたらふく食べられて、これらはもちろんひとつ残らず非日常だが、すべての場面で洗練された日常という印象を受けた。宿を出るとき、また来るね(またうかがわせていただきます、ではなく)、と言い置いて帰れる「近さ」が新鮮だった。
沖縄という強烈な土地とも、リゾ-トというこの国ではいまだ定義もないような言葉とも、〝何もしない時間〟という働き蟻の自分にはまだ早すぎる時間の過ごし方とも、ずいぶん距離感が縮まった。機能、快適さ、眺望、美食、健康、これらすべてから醸されるくつろぎが楽しい、新しいコンセプトの「使える」宿である。
■ホテルの体験プログラムで「最強のベビーリーフ」を齧る
今回の旅で沖縄との距離が、さらに、ぐんと縮まった。ふたりの強烈な農家にお会いできたおかげだ。
ひとり目は、「カフーリゾート・フチャク」が薦める体験プログラム「摘み取り体験」で農園の一部を開放している、ベビ-リ-フ農家の志良堂貢さん(62歳)。
志良堂さんは、もとは観賞用の花卉栽培農家で、小菊を育てていた。ところが農薬のせいか菊がからだに合わなかったのか30代、40代、50代の時にそれぞれアレルギ-反応が出た。50歳をすぎて足も怪我し、菊農家は一生続けられないことを覚悟する。
そこでキャベツ、レタスなど50数種の洋菜を比較研究し、沖縄で競合業者が少なく、商売になり、からだにも資産にも負担をかけない栽培品目として、ベビ-リ-フに目をつけた。
ベビーリーフとは、サラダなどの上に散らされている小野菜の総称。個別には、ルッコラ、ビート、チコリ、レッドマスタード、ターサイ、エンダイブ、早生ミズナなどである。
海砂を敷き詰め、排水に工夫を凝らし、作業しやすいように1mほどの高さに上げた特製の「ベンチ」と呼ばれる栽培台をつくる。ハウス状に屋根をビニルでおおう。完全無農薬にするための方法を考える。そして、「従業員はカエルとクモさ」、と笑う。葉につく卵や幼虫を餌にするカエルとハエトリグモを農園の周辺に世代循環させ、葉を害虫から守る。「ハエトリグモの攻撃性はすごいよ、共食いもするからね。カエルは青虫が好きでさ、でもあまりとれないからおたまじゃくしから育ててる。みんな無給だよ」
現在は約100近いベンチで、1年に15毛作という驚愕の回転数で農園を運営している。なんという力技、と言いたいところだが、これらすべてが腕力ではなく、考え抜かれた合理的な知性の賜物であることは既述のとおり。
海砂を使うので水はけはかなりいい。肥料をおさえ、成熟期まで待つと菜の本性が出てくるそうだ。
一口噛んで、唖然となった。こくがある、やわらかい、舌触りがいい、なにより一葉一葉に強烈な個性がある。おまけに常温で5日も持つほど、へたらない。
どんな味がするかというと、塩気、からみ、酸味、甘み、もうさまざま。そのうえ小さい葉ながら葉肉分があり、じわっと肉汁ならぬ濃厚な旨みのあるツユが出るものもある。味の由来はたとえば塩辛さはミネラルの味だそうだ。
体力、財力、社会への適応力、さまざまな限界と向き合い、受け入れた結果の人生の花である。社会に対してがんばるのをやめ、自分のためにおもしろいことをしようとした。やらされ仕事、食うための仕事は、創造に変わった。
ベビ-リ-フというものが、刈り取りまでどれもまったくちがう味を生きてきて、それらが混ざり合うと、野菜の滋味というものの力がここまで炸裂するのかと、打ちのめされ、ふらつきながら帰路についた。「ドレッシングかけたら怒るよ」、というのもうなずける。
ちなみに、カフ-リゾ-トの体験プログラムとしてはほかに、ヨガ・ウォーク(ウォーキング50分、ヨガ教室60分、各2000円ただし宿泊者先着10名は無料)、琉球舞踊体験(60分1500円)、木工三線手作り体験(120分7000円、レッスンのみ60分1000円)、やちむん陶芸体験(湯飲みから壁掛けシーサーまで各種コース有)、などが用意されている。
■沖縄農業の「風雲児」に会いに行く
山城直人さん(34歳)は熱い。「沖縄でうまい紅茶をつくるのだ」。一生の覚悟をこの若さで固めている、まったく頑固なほどに。
現在1万5000坪の農地を持ち、うち6000坪が茶園、さらにカフェ。これらを家族と仲間そしてアルバイトで切り盛りしている。
摘み取りは年6回、個性あふれる無農薬紅茶の最大出荷量は6トン、そのすべての味と品質が、若き山城さんの頭脳のなかにある。
もとは緑茶農家だったという山城さんの農園の歴史は古く、創業80年を超えた。創業は祖父、それを父が継ぎ、孫の代で緑茶から紅茶に大きく舵を切った。
祖父の代から無農薬だった、とはいえ貧しくて農薬が買えなかったのかもしれない、だがそれがいまや誇るべき伝統となった。肥料のほうは併設する牧畜施設からの堆肥を使っている。無農薬のみならず、循環型農業も実践している。
「いずれは乾燥や加工で使う電力もソーラーに変えていきます。気候が不安定だと茶葉の味もコントロールがむずかしくなります、気候に影響を与えるのが化石エネルギーという疑いがあるなら、われわれ茶葉農家がそれを使うべきではありません」という。農家としての厳しいモラルに打たれた。
山城さんは1977年生まれ、根っからの茶葉農家で、中学を出て静岡の県立試験場で学び、18歳から農園に専念する。中学の頃には元素記号、卒業後には分子式が書けたというから、その努力と集中力たるや、あらかじめ正解が用意されている課題を、クイズのように要領よく答えて行く受験勉強の比ではあるまい。エジソンに通じる在野のサイエンティストである。
今ではほぼすべての茶の味覚成分を化学式で予測、分析、再現できるというから、仮説と検証を積み上げて最適なセオリーを絞り込んでゆく大学の研究室のように論理的であり、実践的である。詳細はさっぱりむずかしくてわからなかったが、山城さんの前では、カンと度胸など、なんの意味もないことがよくわかった。徹底した仮説・検証の連続のうえで最適な法則を引きずり出す理性、導き出された結論を常識と比べたりしない知性、直観(思いつきではなく、理性・知性の上に降臨するひらめき)を信じる意志――ここで、前述の志良堂さんの顔が浮かんだ。
さて、味は。どれも「きれい」「まっすぐ」そんな印象だった。個人的には、「職人仕上げ」が好きだ。緑茶の香りを残しながら紅茶の旨みが楽しめる。人に贈れば「こんなお茶、飲んだことがない」といわれるだろう。「日本人でなければこの味は出せないさ、緑茶も紅茶も両方わかってないとね」と山城さんはうれしそうに笑う。なにしろ世界唯一なのだ。
緑茶は、春摘みの茶葉を使う香り重視の飲み物。一方、紅茶は春から秋まで、季節によって味の深さが変化していく、さらに複雑な飲み物なのだそうだ。
山城紅茶の4種類の商品はそれぞれに個性的。4種類の味のちがいを出すには、摘む時期を4回に分けるということだろうか。たとえば春に浅く、梅雨どきは緑茶と紅茶の中間、夏に少し重く、秋にはどっしりした味、というように。
「そう考えたくもなりますよね、でもその考え方はビジネスとして全然だめです」一蹴された。ひとりの人が、春に浅いお茶を、秋に重いお茶を、という好み方はしないもの。「人間は自分の好きなタイプのお茶を、ずっと飲んでいたいんですよ。山城紅茶の紅茶ならみんな好きだから、その都度いちばん旬な茶を送ってくれ、なんて頼む人はいません。家で飲む紅茶は一家で一種類、そのためには季節にかかわらず4種類を常備しなければならない、うちはその技術を持っています」
紅茶は①やわらかい葉を摘む②日陰で萎ませ味を出す③揉んで色を出す④発酵させて味と香りを出す⑤乾燥させ水分を飛ばす、の5工程「しか」ない。茶葉はユタカミドリ1種類。
山城紅茶の製品3種(1品は現在品切れ中)
スモーキー(1250円)、あっさりストレート(1000円)、職人仕上げ(1250円)、コク重視(1500円)。それぞれに味の深みがちがう。とりわけ職人仕上げは個性あふれる逸品だ。
山城さんは、摘む時期を変えた1000種の葉で、この工程を徹底的に検証し、「狙った味」に持っていくデータを手にした。だから、異なる時期に摘んだ茶葉をどんな味に仕上げ、それらをどうブレンドしたら、最終的に4種の商品になるかは、計算できるという。
キーとなる原酒を供給する蒸留所が閉鎖されても、即座に別の蒸留所の原酒を組み合わせ同じ味をキープできる英国スコッチ・ウィスキーの最高職人・マスターブレンダーを想起した。
大げさでなく大きく手をふって山城さんのもとを発ったものの――自然から受ける幸は癒しやストレス解消なんてちっぽけなものじゃないですよ、実際に人間のお腹を満腹にさせ、喉を潤し、生物として必要なものを与えてくれる具体的な存在ですよ、だから合理的論理的にきちんと理解しましょうね、頭でっかちで自然と接するから馬鹿げた妄想を止められなかったり、人間がしでかしておいて始末に終えぬようなことが起きるのですよ、天に向かってまさに唾!――現場仕事に集中する彼らが、そんな教訓的な発言をするはずもないが、ふたりの、強靭なサイエンティストの顔を浮かべながら、そんなふうに叱られたように思った。
沖縄は来るたび世界の最先端、このことを目のあたりにできたことは、今回の旅の大きな収穫だった。おふたりには是非またお会いしたい。
●沖縄紅茶農園
沖縄市うるま市石川伊波1005 電話098・965・3728
■旅の仕上げは「おんなの駅」
「カフーリゾート」のすぐ近くに「道の駅」ならぬ「おんなの駅」がある。女ではなく恩納の駅である。
地元の野菜や鮮魚や海ブドウなどの海産物、各種の加工産品や泡盛も幅広く豊富に扱う「マーケット」。刺身や沖縄そば、生ジュースやパン、ご当地グルメの「ジューシー」や地元スイーツの「ポーポー」や「サータアンギー」、郷土出版物やCDも深いものを扱っている。
出色は「BGYンナルフォン」レーベルから出ているCD『コザヒストリーソング コザの歌』。SP盤から起こした戦前のアップテンポな琉歌「越来節」から、「コザ小唄」「コザの町夜曲」、新録音の「コザ市歌」まで、コザ(現・沖縄市)という熱気あふれる町の生きた歴史が歌で一望できる。東京に持ち帰る沖縄らしい土産は、ここでそろった。
沖縄で過ごしたあと、帰京するたびに起きる微熱が、今回もしばらく続きそうである。
■『サライ』編集部 副編集長 井本一郎
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