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巨大な杯の異名~話芸のことば探訪~

 滑稽本『花暦八笑人』を書いた瀧亭鯉丈という戯作者には、『滑稽和合人』(こっけい・わごうじん)という名の著作もある。こちらも、現存する落語の素材となった作品として知られている。内容は『花暦八笑人』の続編のような感じである。ただし登場人物などの設定は前作とは別のものになっている。

【大盃(たいはい)を武蔵野と號(なづ)けしも、野見盡(のみつく)されぬといふ謎にして】

という書き出しでこの滑稽本は始まる。
 大きな杯を【武蔵野】(むさしの)と呼ぶ、という洒落は、講談の『母里(もり)太兵衛』や落語の『ためし酒』のような、面子と賞品(あるいは賞金)をかけて大酒呑みが行われるという筋の話芸によく出てくる。武蔵野は広い広い野原であって、とてもひと目で見尽くすことができないから、<野・見(の・み)尽くせない>→<呑みつくせない>→<とても一息では呑みきれないような大きな杯>のことをいうのである。

【そう、大盃のことを昔から武蔵野というのや(桂米朝師の「ためし酒」)】

どうやらこの【武蔵野】とは、そうした大杯一般をさす通称であって、そういう名前の特別巨大な器が一つ伝わっているのではないらしい。どうやら固有名詞ではないようだ。
 こういう「大きな盃とかけて武蔵野ととく、そのココロは」式の「謎ことば」は、「諺」とは言わない。「諺」は教訓を含む表現で、その中に「謎かけ」のような、いわば「クイズ」の要素も必要なのだが、「謎」だけでは諺にはならないのだ。
 ネタや演者によって、この【武蔵野】の容量がいろいろで、一升だったり七合、七合五勺だったりする。そのあたりの細かい詮索はともかく、酒と話芸というのは、どうしても切っても切れない間柄にあるようだ。

■ライター/松井高志
フリーライター、1960年愛知県生まれ。著書は「人生に効く!話芸のきまり文句」(平凡社新書)、「ナンドク 難読漢字自習帳」(バジリコ)など。

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